あれからの日乗

2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧

彼は、自分が確かに無能に違いない点はすでに覚っていたが、しかし他人から簡単にそうと決めつけられて涼しい顔をされるのは、到底耐えられることではなかった。(西村賢太「人もいない春」) bmsは停滞期となり、時給千円の生活からも抜けられぬとなると、途…

七、不能

駄目なときは、駄目の流れに流されるより他はない。その方が、浮かぶ瀬にも辿りつきやすいものだ。(西村賢太「一私小説書きの日乗」) 一年の後、彼は発狂十段を得た。その辺りから、彼の上達は止まり、bms慾は減退を始めた。往時の十段と皆伝の差はあまり…

脱毛記 (1)

待っている方が居るかは知らないが、思いの外忙しく、私小説風糞文章を記す時間が取れず小休止。代わりに別の事を書く。 或ることを契機に、髪の毛と眉毛と睫毛以外の毛を全て駆逐することに決めた。私は何事に対しても思い立つと極端なのである。其の心境に…

六、業苦

こんな際に、その存在を思えば――その存在さえあれば、他のことはすべてがどうでもよい、と達観できるまでにのめり込み、すがりつける対象となる何かがあれば、どれだけ救われることであろう。(西村賢太「蠕動で渉れ、汚泥の川を」) 彼はフリーターになった…

五、一日

大丈夫だ、まだ、大丈夫なはずだ――。​(西村賢太「羅針盤は壊れても」) 彼の一日は、便所掃除から始まる。クリーナーを半分に千切り、便座の隅々まで拭き取った後に紙片を捨てる。 モップ掃除と窓拭きを済ませ、新人の彼がか細い声で挨拶を終えると、水沢と…

四、人生を半分降りる

「貫多の持病は、所詮、一生治る見込みの望めぬ廃疾のようなものであるらしい。」(西村賢太「廃疾かかえて」) いったいにコミュ障と云うものは生き辛く、発達障害を抱えているのであれば尚更である。彼は物心付いた時点で既に落伍者の烙印を押されていたも…

三、廃疾かかえて

しかしそれにしても、こんなふやけた、生活とも云えぬような自分の生活は、一体いつまで続くのであろうか。こんなやたけたな、余りにも無為無策なままの流儀は、一体いつまで通用するものであろうか。(西村賢太「苦役列車」) T大に入るまでは、そのことに…

二、生き辛さ

その墓前にいるうち、気持が吹っきれたようになり、「もういいや、最後の一踊りで」と呟いた。自業自得の積み重ねで、どうせこの先、人並みの社会生活なぞ送れるはずもないのである。(西村賢太「墓前生活」) 彼は一人で遊ぶのが好きな少年だった。往時テレビ…

一、あれからのbms

かつてbmsに人生を捧げた男が居た。 その前に、まずはbmsとは何か説明しておかねばなるまい。 bmsとは落ちてきた音符に合わせて鍵盤を押す、ただそれだけの単純な音楽ゲームだ。 このゲームには単純ながら終わりが無い。プレイヤーは譜面をクリアすることで…