あれからの日乗

一、あれからのbms

かつてbmsに人生を捧げた男が居た。

その前に、まずはbmsとは何か説明しておかねばなるまい。

bmsとは落ちてきた音符に合わせて鍵盤を押す、ただそれだけの単純な音楽ゲームだ。

このゲームには単純ながら終わりが無い。プレイヤーは譜面をクリアすることで成長を続け、作り手はそれに応えてより難しい譜面を作り続ける。

終わりの無いゲームは総じて中毒性が高い。MMO、狩り、無人島……。挙げれば枚挙に暇がない。

彼は実に十五年もの間bmsをプレイしていた。時間で言えば数千時間、或いは万かもしれない。

貴重な二十代の大半を玩具に捧げたことを、人は人生の浪費と嗤うだろう。しかし彼に悔いはなかった。

少なくとも自分の見たい景色には辿り着けたし、適正の無いと思い込んでいた世界で一端のプレイヤーになることはできたのだ。どれだけ無様であろうと、彼の望んだ「最後の一踊り」をやり遂げたことに彼は満足していた。

満足した後に彼は思った。

――私は、これからどう生きれば良いのだろうか。