あれからの日乗

退職した

四月をもって、現在の会社を退職した。ここにその顛末を記す。

転機

そもそも、今の会社は、職歴無しの半無職の私を拾ったのであって、私はその恩義に報いることは当然のこととして考えており、社長もいずれは社の中心人物に私を据えたいという思いを持っていたから、その期待を裏切る積もりは無かった。

転機となったのは、上司が退職したときのことである。上司にLinkedInに登録しておくと将来のために良いよ、と言われたので登録したところ、リクルーターから大量のコンタクトが来たのである。

英語を喋れない私に対し、外国人のリクルーターは私に容赦のない横文字を送ってきた。将来のキャリアプランについてディスカッションしようぜ、なぞ言われても困る。

その中でも一件だけ、私の気を引く求人を紹介され、担当者から話を聞いてみたところ、これぞまさしく私の求めている志向性ではないかと感じた。

最近は在宅勤務が多く、平日にオンライン面談を簡単に行えるということもあり、翌週には技術責任者たちとの面接を行うことになった。

一次面接

いきなりCTOやらカタカナの多い役職の人達との一対四の面接を行うことになった。どんな圧迫面接になるのかと思ったが、そんなことは全くなく、是非来てよ、質問あったら今のうちにどんどん聞いてよ、というフラットなノリで、良い雰囲気で終えることができた。

翌日には通過のお知らせを頂き、翌週には早くも社長との最終面接となった。

最終面接

仕事が忙しく、一次面接はあまり準備できなかったため、最終面接はちゃんとしておこうと思い、一年振りにカラオケに行き、台本を準備して喋る練習をした。

しかし、想定問答集については殆ど問われることはなく、社長の面接は、僕は質問しないので、逆に僕に質問してください、というスタイルであった。逆質問については事前に大量に用意しておいたこともあり、何とか間を持たせることができた。

話を聞くと、何と言うか、惚れた。私のやりたいことの方向性と、社長の野望が完全に合致していたし、この人であればついて行っても良いと感じた。

最後に、社長からの質問が一つだけあり、長すぎる空白期間に私が何をやっていたかを問われた。普通の会社であれば、真っ先にそこを問われ、怪訝な顔をされて落とされるところである。

私は、この人には一定の事実を述べても良かろうと、私のゲームに懸ける想いを語ると、素晴らしい、私は君のような変態こそ求めていた、いずれは社の中核になってほしいなぞ、お褒めに与り、面接中に事実上の内定と給与の確約を得た。

内定

翌日には正式な内定通知を頂き、二週間弱のスピード採用となった。必要な手続きや面接は全てオンラインで完結しており、他の会社については、面接以前に履歴書すら出していない。

かつての私の就職活動はあまりにもイレギュラーであったが、転職もまたイレギュラーなものとなった。私は、転職活動らしい活動を一切していないのである。

退職手続き

むしろこちらが本番で、辛いイベントである。ほんの一、二週間前までは、私自身も転職することを全く想定していなかった。恐らく今の会社に残り続ければ順調に昇格していたと思うが、今の会社と新しい会社を天秤にかけると、新しい会社の方が全てにおいて勝っているのだから、迷う理由が無かった。

結局、私の人生は私が決めることであって、会社の奴隷となってはいけないのである。

先方からはGW空けから来て欲しいとの要望あり、随分急な話になってしまったなあと思うも、その方向で調整を進めることにした。

今の会社からは当然ながら引き留められたが、既に内定承諾済みであるし、私の決意が揺らぐことはなかった。私の給与を上げるという話も出てきたが、そのようなゴネ得がまかり通りるようなことはあってはならず、だいたい、今更そういう話をするぐらいなら、最初から他所に行く気を起こさせないぐらいの額を提示しておけばよかっただけのことである。

引き継ぎ、退職

業務が属人化しているのは組織の問題であって、私の責任ではないのだが、属人化を可能な限り解消して引き継ぎを行わねばならない。私は一人で複数プロジェクトを抱えており、一ヶ月半程でこれらを全て後任者に引き継ぐのは並大抵の事ではなかった。

四月は引き継ぎ資料の作成など、面倒で退屈な作業ばかりしており、労働へのモチベーションは過去最低のものとなったが、引き継ぎや挨拶を無事に終え、後腐れ無く退職することができた。

新しい会社へ

一言で言えば、「イケてるスタートアップ」である。フルリモートが当たり前で11時出社で良いらしい。

元々転職する積もりも無かったので、給与についてはかなり吹っ掛けたのだが、即決で受け入れられ、殆どニートのような半生を送っていた私であったが、今やニートの手に余る金額を得られるようになり、つくづく人生とはよく分からないものである。

変態の居場所

私のような人間は、大企業の組織の一員として、年功序列の世界で生きることには根本的に向いていない。

私は天才ではないが、変態的人生を送っているのは確かであり、変態的カルチャーを持つスタートアップとは相性が良いようで、私のような人間にしかできないこともある。

そういった変態的素養を持った人間は、そこそこの大学に入って、そこそこの企業で定年まで勤め上げる人生よりも、スタートアップに入り、0から1を生み出せる環境で自身の個を活かしながら、自由に働く方が向いていると思う。

勝てるフィールドを選ぶ

「俺には……bmsしかないんですよ」

bmsと心中するというのも、大いに結構な人生だと思う。私は正直なところ、最後までbmsと心中したかったが、入水直前で引き返したのであった。異世界に無職として転生したら、もう一度bmsと心中したいと思う。

音楽ゲームに人生を捧げた結果が今の私である。だから音楽ゲームだけやっていれば良いなどと言う積もりも無く、曲がりなりにも並の社会人よりも苦労して生きていた自負を持っているから、今の私がある。

私は、社会人としてのスタートを切るのが大幅に遅れたので、自身の強みを活かせ、競技人口が少なく、かつ十年後に確実に需要の出てくるマイナー分野を選んだ。結果としてこれが正解だった。

私の人生は回り道ばかりだが、結果的には全て良い方向に進んでいるので、回り道ばかりの人生も悪くないものだと思う。

楽に転職するために

私が感じたこととして、必要なものは、

  • 一年以上の社会人経験
  • 英語力(LinkedInに登録する場合)

だと思う。どんなにブラック企業でも一年は修行と思って耐えた方が良く、何かしら学べることはある。IT系であれば箔付けのために幾つか難関資格を持っておくと尚良い。

TOEICはただのクイズゲームであり、英語力とはさしたる関係も無いが、満点近く取っておけば、相手は勝手に英語ができる人と思ってくれるため有利に働く。

仕事とはゲームである

私の考えるゲームの要件を三つ述べると、以下のようになる。

  • 楽しい
  • 成長できる
  • 明確な実力の指標を持つ(クリア状況など)

成長できる、とは言い換えれば、今日の自分は昨日の自分より強いということである。音楽ゲームでは単純に一日単位では強くなれないことが多いので、週や月のスパンで考えた方がよい。

そして、仕事の要件については以下のようになる。

  • 楽しい
  • 成長できる
  • 地力=年収

三つ目が特に重要で、遣り甲斐だけで大した金を出さない会社は、単なる搾取を行っているだけであるということは、肝に銘じておくべきである。

展望

経済的自立を獲得するためにも、年収については現状で満足するつもりはなく、今の倍は得られるようになりたいと思っている。現状の私にはまだそこまでの地力は無いので、日々地力上げに励み、いつかは豊かな人生を手に入れたいと思う。

以上、何の参考にもならぬ転職記ではあったが、私のような変わった人間にはきっと得られるものがあると思う。次の人生に備え、束の間のバケーションを満喫したい。