あれからの日乗

【感想】東大なんか入らなきゃよかった 誰も教えてくれなかった不都合な話(池田渓)

私はこの類の本にはあまり興味を示さないのだが、この著者は東大の博士課程から失踪してフリーのライターになった著者ということもあり興味を持った。本人の経験もあり、東大の内部事情や落ちこぼれ東大生のことをよく理解している。

東大は人生の幸福を決して約束などしてくれない。

本書では東大を出て不幸になった人たちが何人も出てくる。東大の留年率はかなり高く、二割近いそうである。そのままドロップアウトする人間も居るだろうが、この本にはストレートで卒業して不幸になった人が出てくるのが興味深い。

鬱になったり、官僚になって毎日深夜まで残業したり、博士まで行って高学歴ワーキングプアになったりなど。私は院試中にゲーセンに行ったただの落ちこぼれだが、隣の芝は青いだけであり、私から見れば成功者に見える彼らも苦労しているようである。

作者は本書の結論として以下の三点を挙げている。

「東大を出たことを忘れる」

私は前日記では自身が東大を出ていることについては一度も触れなかったように思う。自分の学歴を全く誇りに思うこともなく半無職の日々を経てていた私は、他人にどこの大学を出ているのか聞かれても「東京の大学」としか答えないようにしていた。

会社でも私はわざわざ自分から大学の話はしないので、このことは一部の人しか知らない。

「環境が合わなければ速やかに脱出する」

下手に東大を出たからといって余計なプライドを持たないことである。

かの電通の事件はブラック企業の象徴として今でも時折話題になる。女の子のtwitterは敢えて母親が残しているようなので、興味のある人は調べてみると良い。リンクは貼らないでおく。

彼女のtwitterを見て思うのは、プライドの塊のような子だなと思う。私のような人間はこの子には馬鹿にされるだけであり、この子とは決して仲良くなれないし、仲良くしたいとも思わない。

彼女は「0円東大生」を自負しており、面接でもそれをネタに使っていたようだが、税金で大学に通わせてもらっている立場上、私はそのようなことを言うのは恥ずかしいことだと思っていたので、友人にも言わなかった。

今の環境がブラックだと思うならば単に辞めればよく、無職になろうと、bmsに全てを捧げようと生きていける。一度全てを失うことで見えてくるものもあるのである。

「自分と他者を比べない」

東大に合格するということは、大学受験という名のクイズゲームに強かったという程度の話である。QMAで言えば、ドラゴン組に留まり続けられるクイズ力を持っているというだけのことである。

bmsの何が良かったかというと、他人を意識する必要がなかったことである。ただ自己の研鑽のみに注力することができ、他人と実力を比べる必要がないことは、私にとっては幸せなことであった。

東大に入ってよかったこと

この本を読むと凡人が東大に入ったところで待っているのは絶望しかないように思えるが、私個人としては入って良かったと思っている。

就職

大半の企業では私のような人間は色物扱いされるが、ごく一部では私のような人間を必要とする企業もある。東大を出ていなければ私は今の会社には入っていないし、今の立場も得られていない。

婚活

私が前の彼女に出会えたのも、婚活アプリで十数名の女の子と出会えているのも、東大を出ていたから、という要因は少なからずある。

このように、活用すべき場面では大いに自身の肩書きを利用すればよい。

とは言え、大学生活自体は全く楽しくなかったし、今の仕事はほぼ大学の外で一人で勉強した分野なので、別の道を選んだ方が良かったのかもしれないと思うことはある。

「自分は決して特別な人間なんかじゃない」と開き直ることができれば気は楽になる。さらに、「せめて、いまの自分にできることを一生懸命にやろう」とまで考えが至れば、前向きに生きていける。

これが全てである。所詮私は学問の世界でもbmsの世界でも凡人に過ぎない。上を見れば切りが無いが、自分の限られた世界の中で上を目指すことは楽しく、生き甲斐となり得る。この本は東大云々という浅い視点よりも、凡人が社会とどう折り合いを付けて生きるべきかという視点から読むべき本であると感じた。