あれからの日乗

十一

十七歳の身体壮健、容姿八十点以上の若武者たる自分が、かような浅ましき仕事にしか就けないと云うのは、それは余りにも間尺に合わぬ話である。そこには、何かしらの根源的な間違いが生じているのだ。(西村賢太「蠕動で渉れ、汚泥の川を」)

彼はbmsにおいて、最終目標としていた譜面をクリアした。
一端の発狂皆伝としてここまで行ければ十分である、と言えるレベルである。

bm98の時代にbmsに出会った彼は、実に十五年以上掛けてここまで辿り着いた。愚かと言われようとも、誰に理解されずとも良いのである。彼は彼だけの世界で満足を得た。

ここが引き際であると心得、bmsについては無期限休止とし、彼は就職活動に専念することにした。

面接に赴くも、結果は芳しくなかった。
そもそも申込み自体をスルーされたり、「話を聞きに行く」だけでお祈りメールを貰ったり、或る所では、学生時代に頑張ったことは、なぞ、新卒用のテンプレートまで問われ、ゴミ扱いを受けた彼は途中で帰りたくなった。

彼は人並外れた能力を持っている自負はあるが、如何せんまともな社会経験を経ず、徒に時を経ててしまったのがいけなかった。

これ以上自分から企業に応募しても色物扱いされるだけなので、企業側からのスカウトを待つことにした。

彼は、自己紹介には都合の悪いこと含め、正直過ぎるほどの真実を書いた。その方が真に彼を必要とする会社に入れると思ったからである。

暫くすると、十社程からスカウトが来た。
そのうち社長直々にお呼びが掛かったものもあったが、会う以前の失態を犯し、会ってさえくれなかった。

彼は反省し、面接ではテンプレートをまともに喋れるように一人カラオケに籠もり、徹底的な反復練習を行った。

聞いたこともない会社からお呼びが掛かり、面接に行くと、なかなか好意的に扱われ、上に上げておく、早速来月からのセミナーに来てくれなぞ言ってくれる。

社長との面接ではやはり彼の社会経験の無さが問題にされたし、なぜ正社員にならなかったのかなぞ聞かれ、それはアルバイト先の社長が無能経営者だからだろう、と出掛かった言葉を彼は抑えた。

いつから来られるか、との問いに、来月頭から、と彼はアルバイトさながらのフットワークの軽さで以て返答し、それまでによく勉強しておくと念を押した。