あれからの日乗

佐倉

旅立ちの前に、友人に会い、無職になったことを報告する。私は人生を半分降りると決め込んだ際に、友人の殆どを自発的に失ったが、Sとは未だに親交がある。

Sは私よりも一回り賃金が高く、既婚である。しかし、四人家族と独身では、自由度において私に分がある。

私もいずれ所帯を持てば、このような自由な旅は二度とできまい。もし、私が変な女に捕まろうものなら、生涯奴隷契約を結ばされることになるのであり、女選びは慎重を期さねばならぬのだが、私は言うほど相手を選べる立場に無いのだから、困ったものである。

旅立つと決めたものの、特に当てもなく、都営新宿線の終着駅、本八幡へ着く。

着いてから、一思案する。私の意中の子は、千葉の出だったから、千葉を巡ってみるとしよう。

千葉と言えば、大学の新歓で行って以来である。私は当時から重度のコミュニケーション障碍を抱えていたから、誰とも会話することなく帰ったのであった。九十九里の、どこまでも真っ直ぐに続く砂浜だけは、記憶に残っている。

かと言って、海岸線の方に出る気も起きてこない。私は瀬戸内の生まれであるから、海は特に珍しくもない。川崎長太郎ゆかりの、富浦方面に出るのも良さそうだが、今回は山へ行き、温泉にでも入って疲れを癒やすことにしよう。

本八幡から、京成本線を成田方面に向かい、京成佐倉で降りる。そこから右手に大通りを進み、坂を上っていくと、佐倉城らしき山が見えてくる。

坂の途中にある、国立歴史民俗博物館に寄った。

軽く寄る積もりだったのだが、展示場が六つもあり、縄文時代~現代まで時代毎にブースが分かれており、予想外に楽しく、全てをまともに見ていると丸一日要しそうだったので、途中からは駆け足で通り抜けた。現代ブースの左翼臭がやや鼻に付いたが、展示の雰囲気は非常によくできていると感じた。いつかまた時間のあるときに、来てみたいものである。

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国立歴史民俗博物館から、さらに坂を上ると、佐倉城に着く。といっても、天守も城壁も何も無い。辺りは犬の遊び場と化している。

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そもそも、佐倉城は土の城であり、石の城壁を持たない。一見するとただの公園だが、土塁や空堀、馬出を見ながら、ここで敵の侵入を防いでいたのか、なぞ城を攻める側、守る側の立場で思いを巡らせながら楽しむものらしい。

そこから歩いて京成佐倉に戻り、京成佐倉の隣の、大佐倉駅で降りる。佐倉の親分のような名をしておきながら、辺りにはコンビニすらなく、辺りには農家の老人以外誰も居ない。こんなところで降りて大丈夫かと不安になる。

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佐倉駅から十五分ほど、車も通れぬような畦道を歩くと、本佐倉城に着く。本佐倉城は山城であり、途中でちょっとしたハイキングコースを通り抜け、ようやく辿り着く。佐倉城と同じ土の城だが、こちらの方が当時の面影がそのまま残っていそうな感じ。

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辺りには人も犬もおらず、しばし、私一人だけの本佐倉城を満喫した。

元の道を引き返して、大佐倉駅まで戻るのも面白くないので、成田線酒々井駅まで、三十分ほど歩くことにする。

まだ宿を取っていなかったため、歩きながらどこに泊まるか思案する。適当な旅館でも探そうかと思ったが面倒になり、成田線で酒々井から千葉へ向かい、さらに内房線で木更津へ向かい、ビジネスホテルにて、一泊。