大多喜
午前八時起床、バイキング。張り切って皿を取り過ぎる。
内房線で五井へ向かう。ジャージ姿で闊歩する女の子を見ると、これぞ田舎だなアと、感じる。
五井から小湊鉄道に乗り換え。小湊鉄道と言えばトロッコである。せっかくなので乗って行こうと思い、
- 「トロッコの当日券、ありますか」
- 「すみません、今日やってないんですよ」
出鼻をくじかれた。
明日であればやっているそうなので、予定を変え、翌日に予定していた大多喜を本日に変更し、養老渓谷に戻って一泊し、翌日に養老渓谷からトロッコで五井に戻ることにした。
ローカル線の錆びついた車体が、大きく揺れながら走る。女子高生二人が仲良さそうに話している。この子たちは、どこの学校に通っているのだろう。
乗客の大半は、上総牛久という駅で降りて行った。乗客は既に数名しかおらず、ここからが本格的な秘境への入口である。こんな駅で終電を迎えたら飢え死ぬだろうという駅に、鉄道オタクの集団がたむろして、写真を撮っていた。あの手の集団は、格好良い車体の写真を撮る努力よりも、先に自身の身なりを何とかすべきだと思う。
山、山、田、山。このような田舎にも家はあり、人も居る。いずれは辺りにコンビニすら無い田舎に越し、静かなる隠遁者として余生を過ごすのも、そう悪くはないかも知れぬと思われてきた。
上総中野にて、いすみ線に乗り換える。ここからは小湊鉄道からいすみ鉄道という別会社のローカル線となる。
大多喜駅にて下車し、降りてすぐ目の前に、復元された大手門に出迎えられる。
ぐるりと坂を上り、学校を通り抜け、ぐるりぐるりと坂を上り続けると、大多喜城に着く。城というものはガードを堅くするため、だいたいは行き辛い場所にあるようである。
城の周囲には土塁が巡らされ、周囲には夷隅川が流れている。復元天守があり、中身はただの博物館であるが、やはり天守があると城に来た感じがする。
途中の休憩スペースにて、森林浴。風が気持ち良い。
城の坂を下り、大多喜で有名なとんかつ屋でも行こうと思い、軽く遠回りを試みると、ハイキング用の山道に迷い込んだ。山には人一人として居らず、足滑らせたら死ぬなあと思いながらも、一時間近く歩いて下山し、とんかつ屋で一休みした。
大多喜からいすみ線で上総中野まで戻り、バスで途中まで行き、そこから二十分歩いて養老渓谷の旅館と向かう。途中にある個人商店が町民の唯一のライフラインであり、ここから先には自販機すら存在しない。
個人商店にて、昭和の香りのするアイスを購め、二十分ほど歩くと旅館へと辿り着いた。
荷物を置き、周囲を散策する。観音橋を抜け、急勾配のトンネルを抜け、足場の悪い階段をひたすら上ると、立國寺に辿り着く。ここは源頼朝ゆかりの地らしい。参拝を済ませ、元来た道へと戻る。
フランス料理屋の方に歩くと、二重トンネルがある。掘り直しによってトンネルの上に穴が残ったままになっているという稀有なトンネルである。
そこから渓谷に降りて、しばし川の流れを楽しむ。疲れたのでハイキングコースの方へはゆかず、旅館へと戻り、黒くてぬるぬるする温泉に入り、疲れを癒やした。
温泉は正直言って、温泉だけ見れば練馬の温泉の方がレベルが高いと感じたが、温泉というものは、入るまでの過程が重要なのだと感じた。
旅館の料理を食べる。不味くはないが、美味くもない。このグレードの旅館に文句を言っても仕方が無いが、大事な人を連れて行くならば、もっと良いところにしたい。
酔いが回り、アルコールが抜けるまで、しばしの眠りに就いた。