あれからの日乗

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ひとりの女を愛することもなく、ひとりの女に愛されることもなく、この世にみじめな思いを残したままで冷たい墓の下に入ってゆかなければならないのだろうか。(西村賢太「けがれなき酒のへど」)

別に生涯独身で何が困るのか、寧ろ余計な柵の無い人生を送れて良いではないか、とかつては諦観していたが、歳を重ね、曲がりなりにも社会人を装う生活にも慣れてくると、途端に所帯を持ちたいと云う迷いが生じてくるのである。

私の周辺の独身者は、自分を差し置いて言うのも何んだが、変な人間ばかりであり、こうはなりたくないと云う思いもある。

良い歳して実家暮らしの、野暮ったさの抜け切れぬ、十歳上の見るからに女に縁のなさそうな同輩と仕事をしていると、私は絶対にこの男のようにはなるまい、との決意を新たにさせてくれるのである。

と、随分上からの物言いであるが、交際経験以前に、まともに女と話したことすらない私には、女のことなぞさっぱり分からないから困るのである。

そんな私も曲がりなりにも努力を重ね、都合十人程の女と出会ったが、一人の女と僅か半月の関係を築いたのみであり、どれだけ隠そうと試みたところで、やはり女の方には私の生来の気持ち悪さと云うものが伝わってしまうようであった。

一人の女と仲良くなると云うことが、これほどまでに難しいのかと何度も打ちのめされ、己の人生の全てを否定されたような絶望を何度も味わい、婚活なぞ始めねば良かったと何度も思ったが、あと数年もすればいよいよ相手を探すのも難しい年齢となる。

根が人一倍往生際悪くできてる私は、今を私に与えられた最後の機会と考え、必死に足掻き続けるしかないのである。